STORY
なぜ、このメディアを
始めたのか。
日本酒の業界に、10年いました。
つくる現場にも、売る現場にも、伝える現場にもいました。若い蔵人が辞めていくのも、長く付き合いのあった酒屋さんが静かに店を閉めるのも、すぐ近くで見てきました。当時の自分は、それを「そういうものだ」と受け止めていたと思います。目の前の一日をまわすことで、精一杯だったので。
いまは業界を離れて、ITのフリーランスとして働いています。離れてから、数字で業界を見るようになりました。蔵の数は減り続けていて、止まる気配がない。中にいたときには、見えていなかったものです。
いつか、お世話になったこの業界に恩返しがしたい。ずっとそう思っていました。ITの力でできることがあるはずだ、とも。ただ、いざ何をするかを考えたときに、手が止まりました。
「恩返しがしたい、と言いながら、自分は業界のことを何も知らないままでした」
自分が知っているのは、自分がいた10年ぶんの現場だけです。いま、蔵元が何に困っているのか。酒販店が何をやめて、何を残したのか。発信をしている人が、どこで数字を捨てたのか。何も知らないまま「業界のために」と言うのは、たぶんいちばん失礼なことだと思いました。
だから、会いに行くことにしました。サケナリは、そのための場所です。取材という形をとっていますが、やっていることは、自分が知らなかったことを一つずつ教えてもらう作業に近いと思っています。
評論はしません。同じ業界にいた人間として、聞かせてもらう。その立ち位置だけは、これから何本書いても変えないつもりです。
いつか100人に会ったころには、「なぜ、日本酒なのか」の答えが100通り並んでいるはずです。それはきっと、いま業界の外にいる自分にできる、いちばんまっとうな恩返しの形だと思っています。